4月の桃源郷
陶淵明「桃花源記」に描かれた仙境・桃源郷。
4月の初め、果樹の生産で名高い笛吹は、まさに桃源郷と呼ぶにふさわしくそこここの畑に桃色の花が咲き乱れるユートピアのようだ。
土地の色、というのだろうか。
まだ役目の前の眠りについている桃狩り・ぶどう狩りの手書き看板と、遠く薄い藍を履いたようなアルプスの峰を背景に広がる淡い緑の下草と桃の花、そして時折伸びる菜の花や野草の色彩が、春霞も相まってやさしく柔らかな春のカラーパレットを作り出している。
これがきっとこの土地の春の色なのだろう。
果樹栽培を生業とする土地のいわば副産物である桃の花畑。だからだろうか、これほどの美しい景色でありながら天然の無防備さと飾らなさがとても良い。
せっかくなので勝沼のワイン醸造所にも立ち寄った。ワインはよく飲む方だが、国産ワインは口当たりがまろくて好きだ。料理の味にそっと合わせてくれるようなそんな人当たりの良さを感じる。
勝沼はワインの産地ゆえか、どこか異国然とした雰囲気が漂っている不思議な土地である。
今は寂しい葡萄畑も、夏には宝石のような葡萄の実を抱きながら旺盛な緑が茂り、実りの秋には燃えるように色づくだろう。
訪れた丸藤ワイナリーで、ルヴァイヤードの赤と、店頭で目を引いたやさしい色味のオレンジワインを買った。
桃源郷の春、そこは色彩で溢れていた。